
「私は何時もこういう何の奇もない所を独りで歩く。人を誘ったところで、到底一緒に来そうもないところである。独りで勝手に歩いているから、時々人と違ったことも考える。先頃この辺を歩きながら考えたこと、それは昔私はよく、この世間にいわゆる聡明な人はきわめて多いが、善良な人ははなはだマレだと思っていたが、このごろ考えてみると、善良な人は案外多くして、本当に聡明な人というものはほとんど無いということである。こんな考え方は、私の歩くつまらない道とともに、おおかたの人はこれを笑うであろう」
池内 紀編「素白先生の散歩」より